久々のブックレビューです。ここのところ、仕事が忙しく、本を読む時間も減りましたし、教育系以外の本を読むことも多かったため、ブックレビューが少なくなっていました…という言い訳を冒頭にしておきます。
さて、今回は渡辺敦司著『学習指導要領「次期改訂」をどうする 検証 教育課程改革』(ジダイ社)を紹介します。
著者は、様々な媒体で教育政策を語る文科省ウォッチャーであり、僕自身、いつも興味深く読ませてもらっています。
本書の構成は、第1章が新(現行)学習指導要領に強い影響力を与えた合田哲雄氏へのインタビュー、第2章が次期学習指導要領に強い影響力を与えるであろう奈須正裕氏へのインタビューです。第3章以降は、主に2000年代以降の教育政策について述べており、タイトルに関することを知りたければ、第1章と第2章を読めば十分です。
レビューに入ります。
まず、新(現行)学習指導要領は、これまでの「内容(コンテンツ)重視」から、「資質・能力(コンピテンシー)重視」になったことは教育関係者にとって周知のとおりですが、「はじめに」で、既に次期学習指導要領の改訂に向け政府が動いていることを踏まえたうえで、「新学習指導要領に課題が残っていた」(5頁)と書かれています。
実際、第1章の合田氏へのインタビューでも「学習内容にメリハリを付けていくことが大事だ…と今でこそ言えますが、当時はまだ「見方・考え方」という議論自体が現在進行形で、とりあえず全教科で見方・考え方を確立しようというところで手一杯でした」(46頁)とあります。
各教科ごとの「見方・考え方」が示されたのは新学習指導要領の斬新な部分でしたが、これ以上に、もっと何かしたかったようなのです。
その一方で、「人口が1億2000万人いる国の中で、一気にやっていこうとするのは大変です」(58頁)という苦労も吐露しています。また、そうなった背景として、「当時はまだ「ゆとり教育」に対する批判の記憶が強く、学習内容を削減することへの違和感が存在していたという社会的な文脈もありました」(49頁)と述べています。
つまり、「見方・考え方」の導入に加え、コンテンツも精選したかったのですが、社会的批判を恐れたということです。
それでも、新しい概念(コンピテンシー)を入れたため、現指導要領は、てんこ盛りの内容になっており、現場の感覚としては非常に難しいと感じているところです(苦笑い)。
では、次期学習指導要領のカギを握るとされる奈須氏が何をしたいのでしょうか。第2章の冒頭で奈須氏は、「コンピテンシー育成の観点から、コンテンツを総ざらいで点検できればいいと思っています。ただ、それを国でやれるかどうかですね。コンテンツの見直しや削減の議論には、各教科等の背後にある学会や関係団体からの強い抵抗が予想されますから」(67頁)と述べています。
つまり、合田氏と同じく、コンピテンシーを重視し、コンテンツを精選したいと思っているようです。
奈須氏が教科指導について、具体的にどのように考えているかについて興味をもたれた方は本書を読まれることを進めます。おそらく、次期指導要領には、奈須氏の理論が強く反映されることと思いますので、学校関係者は知っておいて損はない内容だと思います。
ここからは個人的な意見です。僕自身、社会科の教員として現場で20年くらい授業をしてきましたが、やはり、コンテンツの量は多いと感じています。「こんなこと、中学校の教科書で取り上げるべき内容か?」と思うことが度々あります。ですので、内容を削減してもらうのは大賛成です。
しかし、授業を変えるなら、同時に受験も変える必要があると思っています。いくら授業をコンピテンシー重視に変えても、受験がコンテンツ重視なら、生徒や保護者は授業に不安を覚え、塾に行く割合がより高まるからです。
おそらく、大学入試でまずそれをやろうとしましたが、頓挫した経緯があります。それでも、衣替えした「大学入学共通テスト」は以前のセンター試験より思考力重視になっていると聞きますので、少しずつ変わろうとしているのでしょう。
個人的には、「見方・考え方」を養うには、大学の試験のように、教科書等を持ち込み可にして記述式の試験にするのが最も良い方法だと思います。しかしながら、採点の負担や公平性をどう考えるかという問題もあるので、なかなか議論が進まないのだと思います。
いかがだったでしょうか。学習指導に関する国の議論の行方を知りたい方には、おススメの本です。