前回に引き続き、教員の給与に関する財務省の見解を書きます。
今回は前回示した4つの視点のうち、
③メリハリのある給与体系
④安定財源の確保
について述べます。
前回の分と合わせて読んでいただくことで、財務省の見解がわかると思います。
メリハリのある給与体系とは?
③の「メリハリのある給与体系」については、「教職調整額を含む、教員に特有の手当等を合わせると、平均すれば教員1人当たり残業18時間分の手当(給料の9%相当)が既に支給されている」したうえで、
教員の勤務時間には大きな幅があり、時間外勤務の少ない者もいること、長時間勤務を固定化するおそれもあることから、既定の給与予算を最大限に活用し、一律の給与水準の引上げは抑えた上で、例えば負担が大きい主任手当を引き上げるなど、負担の軽重に応じた「メリハリある給与体系」とするのが基本
としています。
つまり、「今の手取りに時間外の平均は含まれてるし、定時で退勤する教員にも一律に調整額を増額するのおかしいだろ」と言っています。
まず、「残業18時間分の手当が支給されている」ことについては、「義務教育等教員特別手当」、「特別支援教育手当」等を挙げ、これらの手当を平均すれば9%は支給されているとしています。
ただし、ポイントは「平均」であって、全ての教員に支給されているわけではありません。資料では6つの手当を挙げていますが、例えば、役職のない通常学級担当の教諭は「義務教育等教員特別手当」と「期末勤勉手当等への反映分」の2つしか支給されません。資料の作り方の巧妙さを感じます。
次に、「メリハリのある給与体系」については、主任・主事の在校等時間を比較したデータを挙げ、中でも「教務主任」や「学年主任」、「進路指導主事」の在校等時間が多いとしています。逆に言えば、主任・主事の中でも、例えば「教科主任」や「生徒指導主事」は在校等時間は少ないのです。
確かに、「教務主任」や「学年主任」は学年全体もしくは学校全体に関わる業務が多いため、業務を遂行するのにそれなりの時間がかかります。一方、財務省が言うように、ほぼ毎日定時で退勤する教員がいるのも事実です。
実は僕は以前から、このような給与体系は必要だと考えていました。とりわけ、「担任手当」は必要だろうと考えていました。なぜなら、自分も経験してみて思うのですが、中学校における担任と副担任の業務量は全く異なります。正直、副担任は、特に大きい校務分掌を担当しなければ、かなり業務量が少ないです。担任をするというだけで、必要な事務仕事も多くありますし(最たる例は通知表の所見でしょうか)、子供と毎日第一線で接することで、何らかのトラブルに接し、その対応に迫られることもあります。近年、担任を固定しない「チーム担任制」を導入する学校が増えていると聞きますが、僕個人としては、担任の負担を減らすとても良い取り組みだと思います。
話が少し逸れましたが、個人的に「メリハリのある給与体系」については、反論の余地はありません。
安定財源の確保とは?
最後の④の「安定財源の確保」については、「教員の処遇改善を行う場合、「安定的な財源を確保」(骨太2023)することが前提とされており、文科省施策全体の歳出・歳入両面の見直しにより財源を捻出する必要」としています(仮に、教職調整額を10%まで引き上げた場合、約2,100億円の追加予算が必要とのこと)。
つまり、「国全体の予算は増やせないから、自分のとこで無駄な予算がないか見直せ」と言っています。
これについては、学校現場の人間としてはあまり言うことはありません。文科省全体の施策の見直しをしなければならないのでしょう。
ちなみに、「安定財源の確保」のためにいくつか指摘をしており、「児童生徒数の減少等を踏まえ、教育環境を悪化させずに合理化できる歳出はないか(加配定数の合理化等)」としたうえで、1学級あたりの加配定数を維持した場合の令和15年までの試算を示しています。
このデータを見れば、児童生徒数の減少もあり、外部人材も増えていくことから、児童生徒一人あたりの教員数は増えていくように感じますが、やはり、「平均」や「◯人あたり」のデータは実態に即していないように感じます。
また、外部人材は予算化してあるものの、実際になり手がおらず、順調に増えていかないでしょうし、1学級あたりの児童生徒数も地域によって大きなばらつきがあります。先の「メリハリのある給与体系」というなら、受け持つ学級の児童生徒数によって、給与も違ったものになることが必要です。なぜなら、学校関係者はおわかりと思いますが、20人の学級と40人の学級では、事務仕事の量は全く異なり、また、学級あたりの児童生徒数が少ない方が子ども同士のトラブルも少ないからです。
財務省のまとめ
財務省の見解はいかがだったでしょうか。教職調整額の一律増額に否定的ということがわかったかと思います。今回の分に関する財務省のまとめは以下のとおりです。
教職調整額を含む教員に特有の手当等を合わせると、教員1人あたり残業18時間分の手当(給与の9%相当)が既に支給されており、既定の給与予算を最大限活用し、一律の給与水準の引上げは抑えた上で、負担の軽重に応じた「メリハリある給与体系」とすべき。
教員の処遇改善を行う場合、「安定的な財源を確保」(骨太2023)することが前提とされており、文科省施策全体の歳出・歳入両面の見直しにより財源を捻出する必要。
これは個人的な体験談ですが、僕が以前、行政機関に勤務していて、財政担当部局に予算要求交渉をするとき、当該事業等について的確な指摘をされたことが数回ありました。全くの専門外の分野であるにも関わらず、そういうことができることが財政を扱う人たちのすごいところだなと思います。正直、言われた方は悔しい気持ちになりますが、今回の件も納得できる部分もあります。さすがだなと思います。
ただ、財務省が否定的な見方をしているとは言え、教職調整額の増額は自民党が言い出したことですので、予算化される可能性が高いと僕は思っています。
資料のリンク先は以下のものです。興味のある方は覗いてみてください。