久々のブックレビューです。今回は、工藤勇一著『校長の力』(中公新書ラクレ、2024年)です。
本書の内容などについて紹介します。本記事を読むと、おおよその内容はつかめると思います。校長を目指す方、または既に校長の方、そして、学校のあり方に何となく違和感を持っている方にはオススメの本です。
工藤勇一氏について
著者の工藤勇一氏は、教育界ではかなり有名な方だと思います。東京都千代田区立麹町中学校長時代の学校改革を記した著『学校の「当たり前」をやめた。』(時事通信社、2018年)で有名になり、その後も多くの著作を出版しています。
麹町中学校を退任した後は横浜創英中学・高等学校長を務め、この春に退職されています。現在は、校長職をしておらず、X(旧Twitter)のプロフィールを見ると、いろいろな学校にアドバイザー等として関わられているようです。
本書の内容は?
本書は7章から構成されています。以下に各章のタイトルと主な内容を書きます。
1章 生徒と教師が自律するためのマネジメント
→ 工藤氏はよく「自律」という言葉を使います。学校という場所(特に中学校)は、生徒指導上、生徒を「管理」することに重きを置く学校が多いですが、生徒が「自律」することが大切だと説きます。なぜ、「自律」が大切なのか、具体的なエピソードをもとに書いています。
2章 つねに最上位目標に立ち返る
→ 学校は(あるいは教員は)、学力をはじめ、いろいろな力をつけることを児童生徒に求めると同時に、「これはしていい」、「これはしてはいけない」などの様々なルールを作りますが、「最上位目標」の設定と職員間の共有が大事であることを具体的なエピソードをもとに説きます。
3章 校長になるプロセス、なってからの権限は?
→ 校長先生の仕事内容は、わかりやすいようで実はあまり知られていないものあります。また、その権限を存分に発揮していない場合もあります。校長職に就くためのプロセス(自治体により異なります。本書では東京都の場合)と、法的根拠をもとにした校長の権限について解説しています。
4章 教育委員会、議会の知識はなぜ役立つのか?
→ 教育委員会というと、学校を管理監督するお硬い組織という印象をお持ちの方もいるでしょうが、教育委員会(正確には、教育委員会事務局)という組織の内実を解説しています。教育委員会がどのような組織であるか、なぜ教育委員会の知識が学校運営に役立つのかを解説しています。
5章 保護者やPTAとどう付き合うか?
→ 近年の学校の難しさの一つである保護者対応。校長職ともなれば、保護者より年齢が上になっている部分になっているため言いやすい部分もあるでしょうが、上から目線でもいけませんし、学校の敵と思ってもいけません。実践例をもとに付き合い方を説いています。
6章 言葉の力
→ 校長職に限らず、教員も「適切な言葉選び」及び「話の内容」というのはとても大事です。子どもたちに伝えたいことがあっても、言葉が適切でなかったり、具体的なエピソードがなければ伝わりません。工藤氏が実際に生徒たちに話したことを掲載しています。
7章 民主主義の学校
→ おそらく、工藤氏が最も大事だと思っていることであり、学校はこうあるべきと思っていることです。複数の人間が集まれば、大人であれ、「対立」が生まれることがありますが、それをどのように「合意」に導いていくのかを説いています。
印象に残った箇所
次に、僕自身が印象に残った箇所を書いておきます。
与えられるのを待つ姿勢が当たり前になった人間は、うまくいかないことが起こるたびに、他人のせいにしてしまう(29ページ)
僕自身もハッとしました。日本の教育及び社会全体はサービスを受けることが当たり前になっています。そのため、現状が悪化すると、周囲のせいにしてしまう傾向があります。工藤氏はそうではなく、自分の身の回りのことには当事者意識をもち、「自律」することが大切だとしています。
その人の見聞の広さは自分自身が広い視野でクリティカルに仕事をする気があるかどうかが重要で、教育界の外で働いたことがあるかどうか、とはまったく関係がない(137ページ)。
よく、「教員は社会を知らない」と言われますが、工藤氏はそれは違うと言います。ただ、これは、都教委や区教委を経験された工藤氏だから言えることだとも思います。僕自身も行政機関で働いた経験がありますので、仰っていることは概ね理解できます。やはり、学校現場で会う人(他の教員や保護者、地域住民)以外の人と会ったり、話したりすることは、とても大きいです。学校や教員が外からどう見られているかがわかります。とは言っても、行政機関は希望しても行くことができない場合もあるため、そういう方にとっては多くの本を読むことが大切だと思います。
まとめ
本書の内容はおおむね理解できたでしょうか。工藤氏の考え方は「普通の」学校教育の中では異端な考えがあるため、すっと受け入れられるかどうかは個人差があると思いますが、校長職を目指される方、または既に校長の方、そして、学校のあり方に何となく違和感を持っている方にはにとっては有益な一冊であると思います。ぜひ読んでみてください。