【ブックレビュー】なぜ働いていると本が読めなくなるのか

ブックレビュー

 全国の先生方、読書をしていますか? 本を読むことは好きだけど、忙しくて全く読めてないな… そんな先生方は全国に数多くいることでしょう。また、教員という職業に限らず、仕事が忙しく読書という趣味を満喫できていない方は多いことと思います。

 そのような状況を反映しているからか、標題の本が今、売れています。皆、同じようなことを感じているのでしょう。

 標題の本は、教育に関する本ではありませんが、読書を趣味とする先生方も多いと思いますので、今回は標題の本の内容を紹介します。ネタバレも含みますので、読むのを楽しみにしている方はご注意ください

本書の目次

 本書は、285ページからなる新書(集英社新書)です。著者は三宅香帆さんという文芸評論家の方です。プロフィールに1994年生まれとありますので、現在30歳のとても若い方です。

 目次は以下のようになっています。

序章 労働と読書は両立しない?

第一章 労働を煽る自己啓発書の誕生―明治時代

第二章 「教養」が隔てたサラリーマン階級と労働者階級―大正時代

第三章 戦前サラリーマンはなぜ「円本」を買ったのか?―昭和戦前・戦中

第四章 「ビジネスマン」に読まれたベストセラー―1950~60年代

第五章 司馬遼太郎の文庫本を読むサラリーマン―1970年代

第六章 女たちのカルチャーセンターとミリオンセラー―1980年代

第七章 行動と経済の時代への転換点―1990年代

第八章 仕事がアイデンティティになる社会―2000年代

第九章 読書は人生の「ノイズ」なのか?―2010年代

最終章 「全身全霊」をやめませんか?

 目次に目を通すとおわかりになると思いますが、本書の第一章〜第九章は近代以降の日本の労働史と読書史です。そのため、その歴史に興味がない方は、さほど面白く感じることはないと思います。

 タイトルに対する著者の答えを知りたければ、最終章だけ読めば十分です。ネーミングが非常にうまいですね。

日本人の労働に対する考え方の変化

 さて、著者の答えを紹介する前に、本書で重要なテーマとなっている、日本人の労働に関する考え方の変化を紹介します。ネタバレも含みますのでご注意ください

 著者は明治以降の日本の労働史を俯瞰してきたうえで、現代ビジネスマンの成功にとって必要なのは「その場で自分に必要な情報を得て、不必要な情報はノイズとして除外し、自分の行動を変革すること」としています(240ページ)。一方、明治〜戦後は「教養や勉強といった社会に関する知識」だったといいます(240ページ)。

 その節目は1990年代とし、80年代までは「仕事を頑張れば、日本が成長し、社会が変わる」と実感できた時代であり(173ページ)、仕事を頑張るために、また、余暇の中で教養を身につけ、司馬遼太郎などの作品を読んでいたとしています。読書という行為は「知らなかったことを知ることができるツールであり、(中略)社会のことを知ることで、社会を変えることができる」時代だったといいます(183ページ)。

 しかし、バブルが崩壊した90年代以降は、「仕事を頑張っても、日本は成長しないし、社会は変わらない」と実感するようになった時代になったとしています(174ページ)。

 労働や成功に必要なものは、自分に関係のある情報を探し、それをもとに行動することとされ(241ページ)、自分に必要のない情報は「ノイズ」とし、自分に必要な情報しか手に入れなくなったとしています(この「情報」にはスマホ等から得る情報と、自己啓発本などの書籍から得る情報も含まれます)。つまり、自己啓発本などの自分を変革できる本以外の本を読むことは「ノイズ」となっていったとのことです。

 本を読むという行為は、90年代以前も以後もしているのですが、読む本の種類は変わってきているということです。確かに最近は娯楽が増えたこともあり、読書を愉しむという文化はなくなってきています。

なぜ、働きながら読書できないのか?

 さて、ここから、タイトルに対する著者の答えを紹介していきます。

 90年代以前も以後も、働きながら読書をしている人は一定数います。しかし、現代を生きる我々が「読書をしてないな…」と思う人が多い理由―それは現代が「全身全霊を求める資本主義社会だから」であると言います(255ページ)。

 具体的に述べると、21世紀以降に見られる「新自由主義」の能力主義が自己の内面との戦いを求め、人は自分の価値を高めるため、24時間仕事のことを考え、自発的に頑張りすぎ、自分を疲労させてしまう。そのため、仕事以外の他のこと(読書など)を愉しむ余裕がなくなっているとしています。

 その状態から脱却する方法として著者は「半身で働くこと」を提案しています。「半身で働く」とは仕事のみに没頭せず、仕事や家庭、趣味など、様々な場所に自分の居場所をつくることとしています(261ページ)。そうすることで、心の余裕と時間の余裕ができるとしています。

 仕事のことばかり考えているときに、急に「仕事以外のことを考えろ」と言われても難しいかもしれません。そして、多くの企業や職場が全身全霊で働くことを評価する世の中だとは思います。でも、少しずつ、考え方を変えてみるといいと思います。学校における働き方改革も教員一人一人が仕事に対する意識を変えることから始まります

 巻末に、著者なりの「働きながら本を読むコツ」を書いていますので、興味がある方がぜひご確認ください。

まとめ

 いかがだったでしょうか。簡単にまとめると、働きながら本が読めない理由は、現代人が「四六時中、働くことに集中しているから」だということです。

 帰宅後や寝る前も子供のことを考えている先生方はいませんか? 学校でいろいろなことがあっても、帰宅時などに頭の中をリセットし、リラックスするようにしましょう。案外、別のことを考えていた方が良い解決策が浮かぶこともあります。

 そして、仕事以外の余暇を楽しみ、子供の前でいつも笑顔でいると、子供たちも自然と笑顔が増えます。教育基本法第10条にあるように、教育の第一義的責任は保護者にあるのです。学校と教員の役割をしっかり認識し、自分の手に収まる範囲の仕事をしましょう。

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