前々回の記事で、中教審特別部会の答申(案)について書きましたが、個人的には学校における働き方改革はこの数年で随分進んできたと思っています。
しかしながら、世間一般では、文科省が働き方改革に関する政策等を打ち出す度に批判されています。そのためか、前回リンクを貼ったページにおいて、文科省がいかに政策を発信してきたかをアピールするような資料もありますし、いわゆる「3分類」に示されている業務の「対応策の例」も「答申案」の中に入れています。
この「対応策の例」はこれまでも会議資料の中でたびたび目にしています。文科省としては、「例を示しているんだから、業務を減らせとか文句ばかり言わずこれを参考にしろよ」みたいなメッセージを出しているようにも思えます。ただ、学校現場の目線で言えば、文科省のHPを見る教員などはほぼおらず、見るのは、ニュース等で報道される目玉政策のみでしょう。それが実態です。
ではなぜ、「文科省は何もしていない感」を感じてしまうのか、今回の記事ではこれについて分析しようと思います。
結論から言えば、文科省(国)の政策が、一つの学校及び一人の教員に与える影響は少ないからです。以下に、詳しく書きます。
自分たちの要求が通っていない
文科省に働き方改革を進めてほしいと思っている人たちは、主に「給特法の廃止」、「教員定数の見直し」、「業務の削減」の主張していると思います。
このうち、まず「給特法の廃止」については、仮に廃止すると莫大な財源が必要になるため、10%への引き上げという自民党が提示した案にもっていったと思っています。もちろん、理想的には時間外勤務手当を出してほしいのですが、それをするとおそらく、増税という形で我々に返ってくると思います。ですので、10%に上がっただけでもマシなのかと思っています。
「教員定数の見直し」については、学校現場の教員が最も口にすることですが、昨今の教師不足の中、仮に見直しがされたところで、なり手がいませんので人材が確保できません。ですので、これも今してもあまり効果はないと思います。また、増加した分の人件費も当然必要になりますので、上に書いたように財政上、難しいと思います。
「業務の削減」については、具体的には過去の記事を参考にしてください。教員(学校現場)の業務量が減らない理由について書いています。
国ができることは限られている
文科省が、働き方改革に関する政策を打ち出したところで我々教員が実感を伴わないのは、そもそも、国というのは大きな方向性を示す機関であるからです。それを具体化するのが、都道府県教育委員会、市町村教育委員会、そして学校現場です。
例えば、学習指導については文科省が示している「主体的・対話的で深い学び」というキーワードをもとに、各都道府県や校内研修などで授業改善の方法等を探っていると思います。
これと同じで、働き方改革についても国は大きな方向性を示したり、各自治体の例を示すことくらいしかできません。なぜなら、先生方も異動をとおして実感すると思いますが、学校ごとにそれぞれの学校行事や慣習のようなものがあり、業務量は異なってくるからです。
行政機関は、扱っている対象が多ければ多いほど、仕事の規模が大きくなり、全体的な方向性を示すことが必要になってきます。逆に言えば、細かいことはできなくなります。
文科省は日本全国の学校を管轄しています。都道府県は規模によりますが、人口が多い都道府県ではかなり多いでしょう。では、市町村になるとどうでしょうか? 市だったらそれなりの学校数があるでしょう。一方、町や村であれば、その町や村に学校が一つしかないという自治体もあることと思います。自治体の規模が小さければ小さいほど管理はしやすくなります。
働き方改革を進めるのは誰か?
本ブログで何度も書いていますが、学校の働き方改革を進める、そのキーパーソンは学校長です。なぜなら上にも書いたように、学校ごとに業務量は異なるからです。教育課程編成権を持っている学校長が「この学校には何が必要で、何が不要か」ということを考え、業務マネジメントをしなければ学校は変わりません。
また、規模が小さい自治体なら市町村教育委員会による学校改革も可能でしょう。「規模が小さい」とは、10校未満くらいだと思います。そのくらいの数なら、市町村側も管理しやすく、また、学校現場も改革が進んでいるという実感が湧くと思います。
学校の働き方改革に関心を持つ方はご存知だと思いますが、東京都の麹町中学校の学校改革で有名になった工藤勇一氏は当時学校長でしたし、市町村で言えば埼玉県戸田市は学校の業務改革でよく目にします。ちなみに、戸田市の戸ヶ崎教育長は元校長です。このように、学校の働き方改革の成功事例は学校単位又は市町村教育委員会単位なのです。
こういうふうに書くと、自分の環境を悲観的に捉える人もいるかもしれません。「うちの校長は何もしないし、規模が大きい自治体だしな…」と。
でも、悲観する必要はありません。前回の記事でも書いたように、働き方改革は自分自身でも進めることができます。まず、自分の仕事を見直してみましょう。
まとめ
いかがだったでしょうか。僕自身、文科省の肩を持つわけではないですが、少なくとも僕より優秀な方々が働いている機関ですので、軽々しく「文科省は何もできない」、「文科省は無能だ」などといった言葉は言えません。
これまで書いてきたように、国にできることは限られていますので、現状を変えたければ、他者任せや他人のせいにせず、まず、自分で考え、そして動くということが必要になります。
全国の先生方、夏休みも半分も過ぎたと思いますが、心の余裕があるときに普段の業務を見直してみましょう。