本ブログのタイトルの一部にしている「ウェルビーイング」という言葉について、第4期教育振興基本計画を基に記しておきたいと思います。
本記事を読めば、文科省が定義している「ウェルビーイング」という言葉の意味と、第4期教育振興基本計画の概要について理解できると思います。
先に結論を述べれば、「ウェルビーイング」とは「身体的・精神的・社会的に良い状態」のことです。以下、詳しく見ていきます。
教育振興基本計画とは?
まず、「教育振興基本計画」について書きます。「教育振興基本計画」とは、教育基本法第17条1項に基づき、政府が策定している教育に関する総合計画のことです。ちなみに、教育基本法第17条は以下のような条文です。
政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。
平成18年の教育基本法改正に基づき、平成20年に第1期「教育振興基本計画」が策定され、以後、5年ごとに改定されており、現在は第4期です。第4期は令和5年度〜令和9年度の期間となっています。
なお、蛇足ですが、教育基本法第17条2項で「各地方公共団体は、国の教育振興基本計画を参酌し、当該地方公共団体の教育振興基本計画を定めるよう努めなければならない」となっています。努力義務ですが、多くの自治体で教育振興基本計画を策定されているのではないかと思います(名称は、愛称で表現している自治体も多いと思います)。
ところで、「教育」という言葉を聞くと、学校教育のみをイメージする方も多いですが、ここでいう「教育」は学校教育のみならず、社会全体で行う教育を意味します。昨今、「教育」は学校で行うものみたいな風潮がありますので、教員の業務は増える一方ですが、本来、「教育」というのは家庭を基本とし、社会全体で行うものです。この意味を、社会全体が理解することが大切なのですが、現状から考えてなかなか難しいと思います。
ウェルビーイングとは?
さて、ここから本題に入っていきます。本計画は2つのコンセプトを示しており、そのうちの1つが「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」なのです(ちなみに、もう1つは「持続可能な社会の創り手の育成」です」。つまり、ウェルビーイングを向上させることは、現在の国の教育の大きな方向性の1つとなっているのです。
では、改めて、「ウェルビーイング」の定義について確認します。以下のように定義しています。
身体的・精神的・社会的に良い状態にあることをいい、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる持続的な幸福を含む概念
多様な個人がそれぞれ幸せや生きがいを感じるともに、個人を取り巻く場や地域、社会が幸せや豊かさを感じられる良い状態にあることも含む包括的な概念
この定義を踏まえ、第4期教育振興基本計画には、「自己肯定感や自己実現などの獲得的な要素と、人とのつながりや利他性、社会貢献意識などの協調的な要素を調和的・一体的に育み、日本社会に根差した「調和と協調」に基づくウェルビーイングを、教育を通じて向上させていくことが求められます」とあります。
つまり、「個々人がウェルビーイングを獲得しつつ、周囲とのつながりによってもウェルビーイングを獲得していきましょう」ということです。
教師のウェルビーイングとは?
ところで、本計画においては、教師のウェルビーイングについても例を示しています(ちなみに文科省は「教員」と言わずに「教師」と言います)。以下の4つです。
職場の心理的安全性
良好な労働環境
保護者や地域との信頼関係
子供の成長実感
いずれも我々が仕事をするうえでとても大事なことと思います。同僚職員・子供・保護者の3者との良好な関係があれば、毎日仕事をするのが楽しいですよね。でも、3つを同時に実現するのは難しいことは、多くの先生方も実感していると思います。
また、教師のウェルビーイングについては次のような記載もあります。
子供たちのウェルビーイングを高めるためには教師をはじめとする学校全体のウェルビーイングが重要
僕個人としては、この考え方がとても大事だと思います。子供たちに良い教育をするためには、まずは先生たちが健康で、元気で、笑顔でいることが大事だと思います。そのためには、仕事にやりがいを感じることが必要ですし、また、同僚の先生方との横のつながりが大事になってきます。そして、不要な仕事はスクラップしていかなければなりません。
僕は若い頃からこのような考え方に基づき働いていますが、正直、周囲からの理解をあまり得られません。学校現場には、「先生というのは、子どものためには時間を惜しまず働くことが美しい」という風潮があるからです。
一昔前はそれで良かったのかもしれません。しかし、今は学校の業務は肥大化し、我々の労働時間は増える一方です。そこで大切になってくるのが、学校の業務の範囲を明確にすることです。それを実行できるのは、文科省でも、都道府県教育委員会でも、市町村教育委員会でもなく、各学校の学校長です。学校の働き方改革のキーパーソンは学校長なのです。
時間には限りがあります。当たり前のことですが、先生だって、先生である前に一人の人間です。仕事のみしていれば良いという訳ではありません。美味しい食事を食べて、しっかり睡眠時間をとって、友人や家族とプライベートな過ごしたり、外出や旅行をしたりすることにより、心の栄養を補給していきます。その結果、子供たちの前で笑顔で過ごすことができます。
「子供たちのために」という言葉を使うときは、これは本当に学校ですることなのか(家庭や地域がすることではないのか)、規模や時間を縮小してできないか、自分のこだわりでやっている部分がないか、などを見直すべきだと思います。
ウェルビーイングを向上させるためには?
最後に、「第4期教育振興基本計画」が示している、ウェルビーイングを向上させるための5つの基本方針を紹介します。以下の5つです。
グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成
誰一人取り残されず、全ての人の可能性を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進
地域や家庭で共に学び支え合う社会の実現に向けた教育の推進
教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
計画の実効性確保のための基盤整備・対話
この5つの基本方針を実現するために、16の目標及び基本施策を定めていますが、これについては長くなりますので割愛します。興味があられる方は末尾のリンク先をご覧ください。
まとめ
いかがだったでしょうか。「ウェルビーイング」という言葉は今後もどこかで耳にする機会が増えると思いますので、意味を知っておいた方が良いかと思います。
なお、ご存知の方も多いと思いますが、「ウェルビーイング」はもともと、OECD(経済協力開発機構)が使っていた言葉です。学習指導も含め、現在の日本の教育はOECDの政策を参考にしている部分が多いので、日本の教育の今後の方向性を知りたい人はOECDの政策を見てみてください。
文科省の教育振興基本計画は以下のページにありますので、参考にされてください。