財務省の教員給与案に対する文科省の反論(後編)

教育政策

 前回に引き続き、財務省の教員の給与案に対する文科省の反論について書きたいと思います。

 本記事と前回の記事を読めば、財務省の提案に対して文科省が言いたいことがわかると思います。

 結論を先に言えば、③子供たちに必要な教育指導ができない、④教師の裁量が著しく低下するです。

 以下、詳しく見ていきます。

反論③子供たちに必要な教育指導ができない

 まず、財務省は教職調整額を引き上げる条件を、「働き方改革の進捗(在校等時間の縮減)」としています

 これに対し、文科省は「自治体ごとに在校等時間の公表を制度化するなど、長時間勤務を縮減するメカニズムの構築を行う」とし、在校等時間の縮減への取組を行うことを明言しています

 財務省が言う、働き方改革を加速化するためのインセンティブを設定することは賛成のようです。

 ただ、個人的には在校等時間を公表したところで、全国学力調査のように無駄な競争を煽るだけのような気がします。学校の業務量は学校の規模により大きく異なってくるため、規模や地域の事情等も考慮しないと何の比較にもならないと思います。

 一方で文科省は、次のように主張しています。

いじめや暴力行為への対応をはじめ対応しなければならない課題が多く発生し、時間外在校等時間の縮減が容易ではない地域や学校も存在するにもかかわらず、教職員定数の改善等の支援も行わず、勤務時間の縮減を給与改善の条件とする提案は、必要な教育活動を実施することがためらわれ、子供たちに必要な教育指導が行われなくなるなど、学校教育の質の低下につながる

 確かに、生徒指導案件が多い地域や学校もあります。生徒指導事案が多いと、中学校では授業がない空きコマがつぶれることもありますし、放課後の時間も対応に追われることがあります。その結果、必然的に在校等時間は長くなります。

 そのため、文科省は定数の改善等の支援が必要と言っているのですが、前回も書いたように、現在の教師不足の状況では、定数を増やしてもその分の数を確保するのは難しいのではないかと思います。

 学校教育の質を上げるためには、生徒指導案件を含め、学校の守備範囲を明確にすること、つまり、財務省が言う「やりがいの小さい業務を縮減すること」が必要だと思います。

 例えば、学校にはよく「中学生の自転車のマナーが悪い」とか「公園で子供たちが危険な遊びをしている」という電話があることがあり、そのたびに教員が現場に行くことがあります。

 しかし、これは学校ではなく、地域や警察が対処すべき事案であると思います。こういうのを文科省がトップダウンで言ってくれると学校現場は楽なのです。

 また、SNSによるトラブルなども学校では対応しませんと家庭にしっかり伝えておくこと、日頃から生徒指導主事や管理職が警察と連携をとっておくことなどは生徒指導事案が発生した場合の教員の負担を軽くします。

反論④教師の裁量が著しく低下する

 財務省は、将来的に教職調整額を廃止し、時間外勤務手当を支給する案を示していますが(詳細は以前の記事を参考にしてください)、文科省は以下のように反論しています。

仮に残業代を支給する仕組みに移行すれば、勤務時間外の業務に逐一管理職の承認が必要になるなど、教師の裁量が著しく低下し、創意工夫を発揮しにくくなる

 まず、管理職の承認については確かに煩雑になるでしょうが、これは管理職の業務でもあると思いますし(一般行政職はそのようなことをしています)、管理職が一度に所属職員の承認をするのではなく、例えば、学年主任または今後創設される予定の新たな職等のスタッフが学年部等の時間外勤務の内容を把握し、管理職に報告する(口頭ではなく、システムを構築する)と管理職の負担は減ると思います。

 そもそも、学校は教員の業務を個人の裁量に任せすぎているため、時間外勤務が増えるのだと思います。どの職員がどのような業務で時間外勤務をしているかを学年部や管理職が把握することにより、当該職員のサポートもしやすくなります。

 例えば、ある職員が学校行事等の準備で時間外勤務が増えているなら、それを周囲の職員でサポートする体制をつくる必要があると思います。

 また、学校の業務に限ったことではないと思いますが、仕事はこだわりを持てば持つほど時間がかかります。「ここまででいい」ラインを設定しなければなりません。特に、若手の教員はそのラインがわからないため、周囲の職員がアドバイスしながらサポートする必要があると思います。

まとめ

 いかがだったでしょうか。

 今回の分の文科省の反論は、③子供たちに必要な教育指導ができない、④教師の裁量が著しく低下するでした。

 個人的には、文科省の反論は苦しいものだと感じています。財務省が強く言う「業務量の縮減」には反論できていません。業務の縮減に関しては、国としてできることはおそらくもうないと感じているのではないでしょうか。僕もそう思います。業務量の削減は市町村教育委員会事務局と学校長の仕事なのです

 「おまえはどっちの味方なんだ」と言われそうですが、僕としては財務省案の方がしっくりきます。どちらの主張がとおるかわかりませんが、財務省が提案する大胆な改革の方が必要だと思います。

 なお、文科省の反論資料は以下のページです。今回は触れませんでしたが、財務省が指摘している外部人材の配置等による在校等時間の影響などのデータもありますので、興味のある方はご覧ください。

 財務省の資料は以下のページです(資料2の文教・科学技術です)。

 

 

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