先日の中教審答申により、給特法を廃止せず、教員に時間外勤務手当を支給しないことが改めて確認されました。その理由については、これまでも広く語られてきたところですが、今とても話題になっていることですので、今回の答申も踏まえ、改めて、教員に時間外勤務手当が支給されない理由を整理したいと思います。
今回の記事を読めば、給特法が廃止されない理由(教員に時間外勤務手当が支給されない理由)がわかると思います。
結論から言えば、①教員に時間外勤務手当を支給すると莫大な財源が必要になるため、②教員の業務は特殊性があると考えられているためです。今回は②について、詳しく見ていきます。
法的根拠は?
まず、教員に時間外勤務手当が支給されない法的根拠は、給特法(正式名称は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」です)第三条第2項です。以下のようになっています。
教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない。
このように端的に、はっきりと書かれています。
教員の業務の特殊性とは?
では、なぜ時間外勤務手当が支給されないのか。今回の答申の中で、まず教員の業務の特殊性について、以下のように記されています。
教師の業務については、教師の自主的で自律的な判断に基づく業務と、校長等の管理職の指揮命令に基づく業務とが日常的に渾然一体となって行われており、これを正確に峻別することは極めて困難である。
続けて、教員の自主的な判断に基づく業務の代表格とされている教材研究について、このように記されています。
授業準備や教材研究等の教師の業務が、どこまでが職務で、どこからが職務ではないのかを精緻に切り分けて考えることは困難である。
こうした特殊性を踏まえ、教員の時間外勤務について、以下のように結論づけています。
こうした一般の労働者や行政職とは異なる教師の職務の特殊性は、現在においても変わるものではないため、勤務時間外についてのみ、一般行政職等と同様の時間外勤務命令を前提とした勤務時間管理を行うことは適当ではないと考えられる。
個人的には、納得しない部分が多く、理由のこじつけである気がしますが、それについては次の段落で書きます。
最後に、これまでの流れを踏まえ、時間外勤務手当を支給しない理由について、以下のように記しています。
時間外勤務手当を支給すべきとの指摘については、教師の職務等の特殊性を踏まえると、通常の時間外勤務命令に基づく勤務や労働管理、とりわけ時間外勤務手当制度には馴染まないものであり、教師の勤務は、正規の勤務時間の内外を問わず包括的に評価すべきであって、一般行政職等と同様な時間外勤務命令を前提とした勤務時間管理を行うことは適当ではない。
つまり、「教員の業務は他の業種と違って特殊だから、時間外勤務という概念が馴染みません。だから、時間外勤務手当は支給しません。でも、勤務時間外に働いている教員も多いから「調整額」を支給しますよ」と言っています(教職調整額のことまでは言っていませんが、そういうことです)。
教員の業務は他の業種とそこまで違うのか?
さて、国は明確に教員の業務は特殊であるとしていますが、なぜ、そこまで書くかと言うと、おそらく、特殊でないと認めること、つまり時間外勤務手当を支払うことになると、膨大な予算(人件費)が必要になるからだと思います。今更それはできないため、ここまで強く言っているのだと思います。
では、教員の業務はそこまで特殊なのかということですが、僕個人としては民間企業で勤務したことがないため、民間との比較はできません。ただ、時間外勤務手当が支給される一般行政職の経験はあります。そのときの経験を踏まえて言うと、そこまで特殊だとは思いません。
もっとも、人を相手にする・人を育てるという意味においては教員というのは特殊な仕事だと思います。しかし、職務の切り分けが難しいかというと、そうは思いません。「教材研究」・「学級事務」・「学年事務」・「生徒指導」・「部活動指導」・「校務分掌対応」などの業務のカテゴリーをつくり、それについて時間外勤務をするということを管理職に伝えれば良いと思うのです。
その詳細や進捗状況については、基本的に学年主任や管理職は把握する必要はなく、あまりにも膨大になっている場合のみ、業務量の調整をすれば良いと思います。一般行政職はそのような感じでした。むしろ、どのような業務をしているから、時間外勤務をしているということを学年主任や教頭等が把握しておくことが適切な業務管理のために大事だと思います。
どこで見たか忘れましたが、「教材研究をどこまで業務とするか難しい」みたいな話の中で「例えば、美術科の教員が美術館に行き、絵画等を鑑賞することは業務かどうかの判断が難しい」みたいな意見がありました。こういうのは、普通に考えて業務ではないと思います。業務というのは、基本的に職場内で行うものであり、授業の流し方をどうするかなど、授業に直接関係のあることにあたることだと思います。そんなことを言ったら、ある民間企業の社員が、新しい企画のインスピレーションを得るために、旅行に行ったり、美術館に行くことも業務になると思います(業務となるのかもしれませんが)。
教員にしろ、一般行政職の公務員にしろ、民間企業の社員にしろ、仕事をしている人間である以上、日常の何かの行動が仕事につながることがあります。それを全て仕事と言ったらキリがないのであって、ある程度の線引きをすることが大事になってくるのではないでしょうか。
国立・私立の教員には時間外勤務手当が支給される理由
ところで、給特法の廃止を訴える人たちは、国が「教員に時間外勤務手当の制度は馴染まない」と言うと、「国立や私立の学校教員は時間外勤務手当が支給されているじゃないか。同じ教員という仕事なら考え方は同じだろ」と言います。
確かにそのとおりだと思います。そのため、今回の答申において、文科省はその反論をきちんと書いています。それによると、教員の業務の特殊性は共通的な性質があると認めた上で、公立と国立・私立の教員には以下のような差異があるとしています。
国立・私立の教員は非公務員であり、勤務条件等の設定方法が異なる
公立の教員は多様性の高い集団に対して、臨機応変に対応する必要性が高い
公立の教員は、社会的・経済的背景が異なる地域・学校に異動することがある
要約しているため、うまく説明できていない部分がありますが、納得できるでしょうか? 個人的には何とか絞り出した回答であるような気がします。どう思われますか?
まとめ
いかがだったでしょうか。教員に時間外勤務手当が支給されない理由は、「莫大な財源が必要になるから」と「教員の業務は特殊性があるから」と国が考えているからです。どのような理由で「特殊」としているかについては、上の方をお読みください。
以下に、答申全体が掲載されているリンクを貼っておきますので、より詳しく見てみたい方は覗いてみてください。