現在(令和7年8月時点)、次期学習指導要領策定に関する議論が進んでいますが、「教科書の記載内容や分量をどうするか」という議論の中で、高校入試との関係性も指摘されています。
そして、7月28日(月)に開かれた中教審の特別部会の中で、高校入試改革に関する論点や今後の方向性が示されましたので、今回はこれについて書こうと思います。
僕は以前からずっと、「授業改善」と言うなら、高校入試を変える必要があると思っていました。もちろん、「学力」というのは入試がゴールではなく、変化が激しい時代において自分の人生を切り拓いていくための力なのですが、現実的には、生徒や保護者にとって日常の授業の延長に入試があるという認識があるのです。
今般、ようやくこの部分にメスが入ろうとしているのは嬉しい限りです。
本記事を読めば、今後どのように高校入試改革が進もうとするのかがわかると思います。
結論を先に言えば、次期学習指導要領の策定の流れの中で、学力検査及び選抜方法の内容を改善しようとしています。
以下、詳しく見ていきます。
授業改善と高校入試の現状
現行の学習指導要領から、「資質・能力」という概念が重視され、授業で身に付けさせるべき力も変わってきましたが、高校入試は依然として知識重視の問題が多い印象を受けます(とは言え、僕が勤める学校の県では少しずつ単に知識があっても解けない問題が増えてきました)。
これは、採点者側の事情もあると思います。なぜなら、例えば「思考力・判断力・表現力」が大事だからと言って、記述で解答させる問題を増やすと、採点が難しくなるからです。
そんなの、採点基準をあらかじめ考えておけばいいだろうと思うかもしれませんが、記述の問題に対する子供の解答は大人の想定の範囲に収まりません。
採点基準をつくっていてもそれに合致しない解答が多くなるのです。そのような場合、学校の中で話し合ったり、あるいは他校と連絡をとったりして正誤を判断することは大変な労力となります。入試というのはもちろん、公正公平に採点が行われるべきものであり、合否発表までの時間も限られていますので、結果的に、答えが一つしかない知識を問う問題や記号で答える問題が多くなるのです。
しかしながら、近年は問題の傾向も変わりつつあるようです。詳しくは以下の記事をご覧ください。
こういった現状を踏まえ、国は以下のような課題があるとしています。
(入試問題の)質的改善は一定の進捗があるものの、個別の知識を単純に問う出題も依然残っており、出題全体のバランスを踏まえた改善が必要
入試を背景にした保護者の懸念や要望等が教科書を網羅的に指導するとの認識に繋がっているとの指摘もあり、学習指導要領の構造化を踏まえた教科書の改善の実効性を担保する観点から入試の在り方の改善も必要
以上のように、問題の質や教科書の在り方との関連性に課題があるとしています。
また一方で、以下のような課題もあるとしています。
多様な背景を有する子供たちの大幅な増加(不登校、特異な才能・障害、外国籍等)、無償化の流れを受けた各校の特色化・魅力化の推進の必要性、少子化・過疎化の影響等の社会的変化を踏まえ、取組を更に拡充する必要
今回参考・引用している資料の中にもデータがありますが、不登校の児童生徒数は増加の一方を辿っており、地域によっては多様な背景を有する子供も増えています。明らかに時代は変化しています。学力で輪切りにするような旧態依然の高校入試は限界を迎えているということです。
以上を踏まえ、課題を以下のように締めくくっています。
こうしたことも踏まえつつ、学ぶ意欲を有する生徒に対して、希望する学びの場が確保されるための手段として、望ましい高等学校入学者選抜の在り方を検討する必要
具体的論点と今後の方向性
以上の課題を踏まえ、以下のように論点を整理しています。
まず、学力検査の改善については以下の2点です。
中学校以下の授業改善に資する観点も含め、思考力・判断力・表現力等を問う出題の充実に係る課題の整理を国として支援すべきではないか
都道府県教委等における中・高担当部署の連携を図り、出題方針の公表、作問解説、県全体・各学校の分析結果の共有等を促進することによって、中学校の授業改善や進路選択、高校入学後の学習の充実に繋げる可能性をどう考えるか
授業と高校入試を結びつけるという視点と、中・高の担当部署の連携を図ろうとしている視点が新しいですよね。これまで、小・中連携は図られてきましたが、中・高連携というのはあまり進んできていないと思います。こういった流れは中学校の現場の人間としては大歓迎です。ただ、あくまでもこれらは可能性の話です。かなり漠然としていますよね。
次に、選抜方法(入試)については以下の3点です。
高校の特色化・魅力化を促進する観点から、スクール・ミッション、スクール・ポリシーを踏まえた多様な選抜方法を導入する場合は、どのような方法や留意事項があるか整理すべきではないか
その際、多様な背景を有する生徒の個性・特性を十分に踏まえた選抜を充実させるための留意事項を整理すべきではないか
上記の整理も踏まえつつ、生徒や地域の実情に鑑み、学力検査を行わないことができる選抜や、調査書を用いないことができる選抜の取扱い等について整理すべきではないか
従来の調査書(いわゆる「内申書」)とペーパーテストの結果で入学者を選抜する方法を見直すべきではないかとしています。
これらの方法は、基本的に毎日学校に登校している生徒を対象にしています。そのため、不登校生がどうしても不利になってしまいます。そして、折しも少子化により、全国的に定員割れの公立高校が増えています。こういった状況も踏まえ、改革を進めていく方向だと思います。
また、これはニュース等でも報道されましたのでご存知の方も多いと思いますが、総理が公立高校の併願制の導入について検討するよう、文科省に指示を出しました。こういった流れの中でも、今後、高校入試改革は進んでいくものと思われます。
芦屋市長髙島氏の思い
最後に、会議資料の一つにある、兵庫県芦屋市長の髙島崚輔氏の意見を紹介します。
髙島氏は令和5年(2023年)に芦屋市長に当選した際に話題になりましたが、当時史上最年少の26歳で市長に当選した方です。また、灘中学校→灘高校→東大→ハーバード大という大変華麗な学歴の持ち主であり、今回の中教審の特別部会の委員も務められています。
髙島氏は「こどもの声を聴く公立高校入試改革を」と題して、以下の3つの提案をしています。
①主体性を引き出す内申点制度の再設計
②探究的な学力検査への刷新とDX
③教師にしかできない面接等の活用
いずれの提案も中学生や中学校教員、保護者と対話する中で感じてきたものをまとめたものです。僕個人としても賛同する部分の多いものです。一つ一つの提案について興味のある方は本記事末尾のリンク先(文科省のページ)の資料や以下のリンク先をご覧ください。
まとめ
いかがだったでしょうか。
高校入試は、次期学習指導要領の策定の流れの中で、学力検査及び選抜方法の内容を改善しようとしています。
より詳しく見てみたい方は以下のページをご覧ください(資料1と参考資料1-2を参考にしています)。