前回の記事で、次期学習指導要領が目指す「分かりやすさと使いやすさ」のポイントについて書きましたが、今回はその中でも触れた「中核的な概念」について書きたいと思います。
本記事を読めば、次期学習指導要領の考え方の目玉の一つとなる「中核的な概念」と学習指導要領の「構造化」のイメージがわかると思います。
以下、詳しく見ていきます。
近年の諸外国の動向
まず、近年の諸外国の教育課程基準の改革の動向について、文科省の資料をもとに見ていきます。
それによれば、「諸外国で「キー・スキル」「21世紀型スキル」といった、育成すべき資質・能力を重視したコンピテンシーベースの教育課程の基準に改革する動きが見られる」とし、「一部の国では、次の段階の改革として、核となるコンピテンシーや概念等を指す「中核的な概念」により、教育課程の基準の構造化に取り組む動きが見られる」としています。
「中核的な概念」、「構造化」の文言がここでも出ていますので、今後、我が国が目指している方向性はこれだと思って差し支えないと思います。
ちなみに「コンピテンシー」は教育界では、「資質・能力」と訳されています。現行学習指導要領から重視されていますが、現場の教員が完全に理解できている状況ではないと思っています。
カナダの事例
では、ここから諸外国の事例を見ていきましょう。まずは、カナダのブリティッシュコロンビア州の事例です。
カナダのブリティッシュコロンビア州では、以下のようにしているとのことです。
各教科の重要な概念や原理等を示す「ビッグアイデア(Big Ideas)」を各教科、1学年ごとに位置付けている。
ビッグアイデアと並べて教科別コンピテンシーや教科内容の学習基準を示している。
「ビッグアイデア」が「中核的な概念」に相当するものです。
例えば、小学校1年の算数では、「ビッグアイデア」を「20までの数字は10と1に分解できる数量を表す」、「物体と立体は記述、測定、比較できる属性を持つ」などの5つとしています。
その下に「教科別コンピテンシー」と「教科内容」を並べて示し、「ビッグアイデア」を獲得するために、児童がどんなことを知り、どんなことを理解し、どんな技能を身につければ良いか、そして、そのためにどのような内容を教えれば良いかということを記載し、構造化しています(とは言っても字面では理解しにくいと思いますので、興味のある方は本記事末尾のリンク先をご覧ください💦)。
我が国の学習指導要領は、身につけるべき資質・能力については、各教科等の目標に記載されているものの、活字しか並んでいないため、非常に難解に感じます。
例えば、単元ごとに本単元で理解すべき「中核的な概念」や「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」・「学びに向かう姿勢」などを整理し、構造化してあるととても見やすく、理解しやすくなると思います。
現場の教員はとにかく時間がありません。机に座ってじっくりと何かを学ぶのは夏季休業中くらいしかないと思います。研究と修養が大事なのはわかりますが、できるだけ短時間で国の方向性を理解し、実践できるようにしてほしいと思います。
韓国の事例
次に、韓国の事例を見ていきます。
韓国では、以下のようにしているとのことです。
学習を通して一般化できる内容である「核心アイデア」を各教科に紐づく学習領域ごとに設定し、全学年共通のものとして位置付けている。
教科学習で学ぶべき学習内容を「知識・理解」、「過程・技能」、「価値・態度」の3要素で整理している。
「核心アイデア」が「中核的な概念」に相当するものです。韓国の3要素は我が国ととても似通っていますね。
例えば、社会科の「持続可能な世界」の学習領域では、「核心アイデア」を「人間が居住するのに有利な条件は空間的に不均等に分布し、これにより地域間の葛藤や紛争が発生する」などの3つとし、その下に小学校3~6年と中学校1〜3年で獲得すべき「知識・理解」、「過程・技能」、「価値・態度」について構造化しています(カナダの例と同じく字面ではわかりにくいと思いますので、興味のある方は末尾のリンク先をご覧ください💦)。
これは非常に見やすく、またわかりやすく、我が国もこれを参考にすると良いかと思うくらいです。
これを見ると、教師が評価問題を作成するときも参考にしやすいのではないかと思います。
「中核的な概念」を獲得するのは可能か?
ここまで見てきた「中核的な概念」を児童生徒が理解・獲得することは、学習を進めるうえでとても大事なことと思いますが、諸外国の事例を見ると、単元や領域ごとの総合的な力だと感じます。
これを全ての児童・生徒が理解できるとは個人的には思えず、また、これを評価するためには大学の定期試験のように持ち込み可の記述式でないと不可能な気がします。
「指導と評価の一体化」という言葉がありますが、学習指導したら、それが定着しているかの評価が大事であり、授業を変えるなら、当然定期テストや入試問題も変えなければなりません。このへんの部分も含めて改革を進めてほしいと思います。
まとめ
いかがだったでしょうか。
次期学習指導要領の考え方の目玉の一つとなる「中核的な概念」とは核となるコンピテンシーや概念等のことです。これを中心に「構造化」することが現在、検討されています。
今回は、カナダと韓国の事例を挙げましたが、この他にもオーストラリアや台湾の事例も掲載されいていますので、興味はがある方は以下のリンク先の資料をご覧ください。「参考資料1-1」から抜粋しています。