次期学習指導要領策定に向けての議論が始まって以来、関連する資料を読んでいると、「深い学び」や「深い」、「深まり」の語句をよく目にします。
例えば、令和6年(2024年)12月の中教審への諮問の概要資料を見ると、「習得した知識を現実の事象と関連付けて理解すること、概念としての知識の習得や深い意味理解をすること、(中略)等に依然として課題」とありますし、令和7年(2025年)9月に示された「次期学習指導要領に向けた検討の基盤となる考え方」のトップに「主体的・対話的で深い学びの実装」を掲げ、イメージ資料では「深い学びの実装」を強調しています。また、令和8年(2026年)8月の「審議まとめに向けた検討」資料の検討事項の①と②双方に「深い学び」や「深まり」という語句が随所に見受けられます。
そこで今回は、次期学習指導要領において、「深い学び」が重視される理由と、それがどのように整理されていくのかを記したいと思います。
本記事を読めば、「深い学び」が重視される理由、そして、「深い学び」を実現するために学習指導要領がどのように整理されるかがわかると思います。
結論を先に言えば、「深い学び」の浸透が道半ばであり、AI時代を生き抜くためには「深い学び」は重要であること、そして、学習指導要領は「統合的な理解」・「総合的な発揮」を中心として整理される方向性です。
以下、詳しく見ていきます。
「深い学び」が重視される理由
現行学習指導要領の代名詞とも言える「主体的・対話的で深い学び」ですが、このうち、「主体的」と「対話的」については、言葉を見ただけでおおよその意味とそれを実現するための方法(もちろん、様々な方法や解釈があるのでしょうが)が、これまでの教育実践の蓄積もあり、イメージできる先生方が多かったと思いますが、「深い学び」については「深い」が何を意味するのか、そしてそれをどのような方法で実現できるのかは学校現場の教員には正直わかりにくかったと思います。
上にも挙げた、令和8年(2026年)8月の「審議まとめに向けた検討」の資料の検討事項①にも以下のような記載があります。
とりわけ「深い学び」については、経験豊富な教師にとっては自然と志向するものであるものの、多くの教師にとっては、各教科等の具体の文脈の中でイメージを掴み取りにくいとの指摘もあり、学校現場への浸透は道半ばであると言える。
また、同資料には以下のような記載もあります。
近年、AI が飛躍的に発展し、社会に浸透しつつある中、知識の取り出しや大量の情報の整理・分析などはAIに代替されつつある。こうした中、個別の知識の集積に止まらない概念としての習得や深い意味理解、それらを通じた知識の構造化や問題意識の醸成、これらを総動員して思考・判断・表現し、自分なりに課題を設定して現実の複雑な課題に取り組む力の重要性が一層高まっており、こうした資質・能力の「深まり」を「深い学び」により促進することが喫緊の課題となっている。
AIはいわゆる「浅い知識」は簡単に答えてくれます。しかしながら、将来、予測困難な社会を子供たちが生きるためには、個別の知識を概念として習得したり、課題を設定して現実の複雑な課題に取り組む力が必要になってくるとしています。こうした理由から、2030年代の学校教育においては「深い学び」が重要であるとしています。
そもそも「深い学び」とは?
では、そもそも「深い学び」とは何なのか。改めて、その意味を紹介したいと思います。
現行学習指導要領の解説においては、以下のように記されています。
「習得・活用・探究」という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすること
「知識を相互に関連づける」というところがポイントです。
また、現行学習指導要領の策定に関わられた田村学氏は著書『深い学び』(東洋館出版社、2018年)の中で以下のように述べています。
「深い学び」とは、子供たちが習得・活用・探究を視野に入れた各教科等固有の学習過程(プロセス)の中で、それまでに身に付けていた知識や技能を存分に活用・発揮し、その結果、知識や技能が相互に関連付けられたり組み合わされたりして、構造化したり身体化していくことと考えることができる。
当然、同じようなことを述べていますが、「それまでに身に付けていた知識や技能を存分に活用・発揮」とあることから、単元の終盤で展開される学習過程であることがわかります。毎時間、「深い学び」を求めることは難しいのです。
さらに、現在、中教審の教育課程部会の部会長を務める奈須正裕氏は「内外教育ウェブ」のインタビューの中で以下のように述べています。
「深い」とは何か。簡単に言えば,「関連付く」ということです。知識がバラバラに所有されているのではなく,互いに関連付いて統合され,意味として理解され,実際に使えるようになる。それが「深い」ということです。(中略)「深い学び」では,さまざまな知識が関連付いて頭に蓄積されていきます。すると,初めて見る問題でも,これまで学んだことを使って考えられる。全国学力・学習状況調査でいうところの「活用型」の問題に対応できるような力が身に付くのです。
やはり、同じようなことを述べていますし、これが最もわかりやすい説明かと思います。未知の状況にも対応できる力を子供たちに付けさせていかなければならないということです。
「概念」を捉えさせる方向性へ
では、このような課題認識から、いかに「深い学び」を確かなものにしていこうとしているのでしょうか。
前掲の引用資料の中にも「概念」という文言があるように、次期学習指導要領においては、学習内容の個別の知識ではなく、知識を「概念」として子供たちに捉えさせることが重要だとしています。このような流れは諸外国の近年のトレンドでもあるようです。
なお、ここで言う「概念」とは、ある一定の学習のまとまりごとの知識や技能のことです。例えば、中学校数学の「数と式」の単元では、「数の範囲を拡張することにより、より広範な事象を一般的かつ明確に表し、計算が能率的にできるようになることを理解する」といった感じです。
これを当初は「中核的な概念」とし、「中核的な概念」を中心に学習指導要領を構造化をすることで検討を始めました。詳しくは以下の記事をご覧ください。
その後、「中核的な概念」等を「高次の資質・能力」という呼称にするという案も浮上しましたが、「学校現場に誤解を招く」といった懸念から、今後は、「知識及び技能に関する統合的な理解(以下、「統合的な理解」)と「思考力、判断力、表現力等の総合的な発揮」(以下、「総合的な発揮」)といった呼称に変わることになりそうです。
「統合的な理解」・「総合的な発揮」として整理
この「統合的な理解」と「総合的な発揮」の意味を理解することで、「深い学び」を実現しようとしていることがわかります。
「統合的な理解」とは、「知識及び技能」が深まり、「個別の知識や技能が相互に関連付けられて一般化され、統合的な理解となった状態」であり、「総合的な発揮」とは、「思考力・判断力・表現力等」が深まり、「複雑な課題の解決に向けて、個別の思考力、判断力、表現力等を組み合わせたり選んだりして総合的に働かせた状態」です。「深い学び」の意味と一致する文言が多いですよね。
そして、個別の知識や技能が関連付けられて統合的になること(「資質・能力の深まり」)や「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力等」の関係性(「資質・能力」の一体的育成」)を学習指導要領上で可視化することで、「深い学び」を具現化しやすくするとしています。そのため、次期学習指導要領は現在のように活字だけでなく、「統合的な理解」・「総合的な発揮」を中心に構造化され、表形式になる予定です。詳しくは以下の記事をご覧ください。
また、検索機能なども設けられ、デジタル化される予定です。これについては以下の記事をご覧ください。
ちなみに、小学校算数の「変化と関係 割合と比」の領域の「統合的な理解」と「総合的な発揮」のイメージは以下のとおりです。
<統合的な理解>単位量あたりの大きさや割合、比は、二つの数量の関係を数で表したものであり、その数を用いて、二つの数量の関係どうしを比べられることを理解する。
<総合的な発揮>事象における二つの数量の関係に着目し、比べ方を考察し、判断に生かす。
これは現在の案であり、今後策定までにブラッシュアップされていくものと思われます。他の教科のも見てみたい方は以下のページをご覧ください。
まとめ
いかがだったでしょうか。
次期学習指導要領においては「深い学び」が重視される理由は、「深い学び」の浸透が道半ばであり、AI時代を生き抜くためには「深い学び」は重要であること、そして、「深い学び」を実現するために学習指導要領は「統合的な理解」・「総合的な発揮」を中心として整理される方向性です。
現在の学習指導要領は日常的になかなか見ないものと思いますが、次期学習指導要領は使いやすく、見やすく、分かりやすくなるものと思います。どんどん活用したいものですね。





